滝上の滝下地域にある「命の大切さを伝える”牧場”」

 

こんにちは。オホタ編集長の佐久間茜華です。

 

今回は滝上町にある”いのうえさんち”へ行ってきました。

 

 

滝上町。そこはオホーツク紋別空港から40分ほど車を走らせた場所にある、手つかずの美しい自然が残るまち。まちの約90%が森林で、民有林の機能維持のため木材、木工品の生産、木質バイオマス資源の活用などに励んでいます。林業の他にも、このまちは畑作や畜産を中心とした農業も盛ん。そして、日本最大規模を誇る芝ざくらも滝上の宝の1つです。

そんな滝上町の人口は2016年9月30日時点で2,757人。そのうちの10数軒が住む滝下地域に”いのうえさんち”はあります。

 

 

”いのうえさんち”、それは有限会社井上牧場のこと。

現在代表を務める井上秀幸さんの祖父が、樺太から引き上げ滝の上に入植した際、山奥に土地をもらい牛飼いを始めました。有限会社になったのは平成9年のことです。

 

井上秀幸さん・井上智美さん

経済性だけでなく、共栄を願う牛飼い

井上牧場で暮らす牛は、ホルスタイン、ブラウンスイス、ガンジー、もしくはその交雑種。どんな牛の命も大切に

 

70ヘクタールほどの敷地では、およそ150頭もの牛が暮らしています。みなさんがよく知っている白黒の”ホルスタイン”。茶色で目の大きい”ブラウンスイス”。赤みの強い茶色の”ガンジー”。筆者は初めての牧場で、交雑種の見分けをつけるのに一苦労でした。

 

井上牧場はもともと酪農業、つまり牛乳を生産するための牧場です。乳牛だけ飼育するには、雌牛を購入すると良いですね。

でも、井上牧場ではより質の良い牛乳を作るため、ホルスタインとブラウンスイスを人工授精させ、交雑種を増やしています。

 

もし、人工授精をして「男の子」ができてしまったら?

取材をした日の朝に生まれました。

 

井上さんは考えました。せっかく育てた可愛い牛が、他の牛と混ざってミンチになってしまったら?望まない加工をされてしまったら?牛飼いとして、彼らを育てた親として、嬉しいはずがありません。

 

サンクスビーフの取り組み

元気に井上牧場で育ってもらって、大きくなったら美味しく頂こう。

 

 

ホルスタインであれば肉牛農家で買ってもらえます。ですが、井上牧場で飼育する牛は交雑種。近隣の酪農家さんたちは、ブラウンスイスを扱ったことがないので、安易に買ってもらうことはできませんでした。

取り組みを始めて8年が経ったいま、市場に”肉”が足りない時代になり、飼い方も周知されてきたことから、だんだんと引き取ってもらえるようになってきました。放牧場で暮らす牛さんの大半は男の子。ここでのびのびとストレスなく過ごした後、屠畜場に行き、その一部を井上牧場で買い戻したものを”サンクスビーフ”として市場に出されます。

「せっかく産まれてきた命だから。」

命を大切にしたいと考える井上牧場だからこそ、雄牛が生まれたら できるだけ肉用として井上牧場で牧草を好きなだけ食べ、元気に幸せに育ってもらいます。

みなさんの食卓に届いた時に、美味しく大切に食べてもらえることを願って。

 

牛たちは 暑さは苦手。晴れた日は、みんなで木の下の日陰に隠れます。

 

サンクスビーフを通して、命の大切さを生産者として噛み締め、また消費者にも届ける。そんな取り組みを行います。取り組みを始めて1〜2年、近郊の紋別市で扱ってもらい、いまでは札幌市と埼玉県で”ステーキ”として消費者に届けられます。

 

さらに、井上牧場では サンクスビーフにした時の牛脂をベースにした「いのうえさんちのラズベリー石鹸」をも作ります。

 

使用するラズベリーも、井上牧場の一角で栽培するもの。

 

 

この石鹸は、井上牧場や紋別にあるダイニングカフェquattro(クワトロ)さん、そしてサンクスビーフを扱う札幌のステーキ店で購入することができます。

牛脂は動物性なので人の肌になじみやすく、昔から石鹸の原料として扱われてきました。その牛脂を再び石鹸にと声をかけてきたのが、ハーブ系の化粧品を生産、販売する工房を営む方。

サンクスビーフは1年に5〜6頭を出荷しています。そこから採れる牛脂の量は限られているため、多くの石鹸を作り、流通させることができないことが課題だと、いのうえさんちの娘さんである みなみさんは話します。

 

肉牛の命と、乳牛の命。

井上牧場の本来の仕事は、”牛乳をつくること”。お母さん牛の仕事はお乳を出すことだから、雌牛は長く牧場で暮らしていられるのでしょうか?

彼女たちは あと2年〜3年でお母さん牛になります

 

いいえ、そんなことはありません。

事故や病気での死亡。もしくは人間が寿命を決めます。それは、お乳の質が落ちてしまった時です。みなさんは美味しい牛乳や乳製品であるチーズなどを食べたい、そして生産者も求められる品質を保つために努力をします。そうすると、本来20年ほど生きると言われる牛も、10年と生きられません。

そう考えるのは”いのうえさんち”の娘さん。

姉/扇(旧井上)みなみさん・妹/井上愛美さん

 

普段から、牧場のこと、牛さんのことを考え井上牧場ブログで発信しています。お二人は「Casochi合同会社」を立ち上げ、家業である牧場を手伝う合間、過疎地の暮らしサポーターや、デザインなど、滝上町滝下で暮らしながら取り組みをします。

記事前半で出てきた取材日に誕生した”牛さん”が脱走した場面(笑)

 

井上さんご家族は、牛のことを考えながら共に暮らす”楽しい牛飼い”と、牧場のあり方について改めて考え、実行し、発信を続けます。

 

 

消費者として、普段から食物と見ている”牛さん”への感謝の気持ちを忘れてはいけない。と筆者の考えも改めさせられた1日でした。

料金

いのうえさんちのラズベリー石鹸 ¥1,080